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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)3465号 判決

原告

金平正紀

甲事件の原告訴訟代理人弁護士

安倍治夫

乙事件の原告訴訟代理人弁護士

鹿野琢見

成海和正

赤尾直人

小玉政吉

被告

株式会社文藝春秋

右代表者代表取締役

千葉源蔵

右訴訟代理人弁護士

植田義昭

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の甲事件の請求及び乙事件のその余の請求をいずれも棄却する。

三  弁論併合前に甲事件につき生じた訴訟費用は原告の負担とし、弁論併合前乙事件につき生じた訴訟費用及び弁論併合後の両事件の訴訟費用についてはこれを十分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

(甲事件について)

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1 被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年四月二九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告に対し、その発行にかかる雑誌「週刊文春」に別紙第一記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする

との判決並びに仮執行宣言

二  被告

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  請求原因

1 原告は、世界プロボクシング界の名門クラブである協栄ボクシングジムの創立及び推進者であり、後記2の記事掲載当時はその会長の職にあり、ボクシングマネージャー及びトレーナーとして約三〇年の経験を有する者であつて、その門下からは海老原博幸、西条正三、具志堅用高(以下「具志堅」という。)、上原康恒及び渡嘉敷勝男(以下「渡嘉敷」という。)というボクシング世界選手権保持者を輩出して来た。原告はまた日本ボクシング界を統括する全日本ボクシング協会(ボクシングジム経営者の団体)の前会長であり、またボクシング事業家としては、各一億円レベルの収入を伴う第一級の国際的ボクシング試合を年間数件の割合でとりまとめて来たボクシング事業界の世界的名士でもある。

2 被告は、雑誌「週刊文春」の編集・発行者であるが、同誌昭和五七年三月一一日号の二四頁ないし三二頁に、「金平会長は薬物投入の仕掛人!」「カンムリワシ具志堅用高は『汚れた英雄』だった」と題し、原告が五人ものプロボクシング世界選手権保持者を育成したのはその実力によるものではなく、相手方選手の飲食物に特殊な薬物を混入するという狡猾な謀略工作によるものであつたかのように印象づける記事(以下「第一回記事」という。)を昭和五六年六月二日の渡嘉敷対金竜鉉のボクシング試合に焦点をおきつつ掲載し、かつ昭和五七年三月四日頃から同誌同号約七〇万部を被告の販売網によつて全国各地に頒布し、不特定多数者の目に触れる状態においた。右記事はその全篇にわたつて原告を非難中傷する事実を摘示したものであるが、そのうち特に明瞭に原告の名誉を毀損する記載部分を抜粋すれば、別紙第二「名誉毀損箇所一覧表(第一回記事)」のとおりである。

3 続いて被告は、「週刊文春」昭和五七年三月一八日号の二四頁ないし三八頁に、「金平問題第二弾、具志堅用高=薬物入り世界タイトルマッチの全貌、コックの証言『私がやりました』」と題し、原告が具志堅の各世界選手権試合において試合を有利に展開するために、相手方選手の宿泊するホテルのコック長を買収してその食事に薬物を混入させることに成功し、またX氏なる人物に依頼して右同様の工作を行つたかのように印象づける記事(以下「第二回記事」という。)を昭和五三年五月七日の具志堅対ハイメ・リオスの第五回世界選手権防衛試合に焦点をおきつつ掲載し、かつ昭和五七年三月一一日頃から同誌同号約七〇万部を被告の販売網によつて全国各地に頒布し、不特定多数者の目に触れる状態においた。右記事は、その全篇にわたつて原告が具志堅をして一三連勝せしめたことの背後には卑劣な薬物投入の謀略工作が仕組まれていたかのように強調し、原告のボクシング事業のあり方を非難中傷する事実を摘示したものであるが、そのうち特に明瞭に原告の名誉を毀損する記載部分を抜粋すれば、別紙第三「名誉毀損箇所一覧表(第二回記事)」のとおりである。

4 第一回、第二回各記事はいずれも虚構のものであり、かつ、被告によつて故意に事実を歪曲して執筆されたものである。仮にそうでないとしても、被告は、右各記事の執筆・掲載にあたり必要な調査を怠つた過失がある。

5 被告の右行為は名誉毀損による不法行為であるから、被告は民法七〇九条、七一〇条に基づき、これにより原告に生じた一切の信用低下及び精神的苦痛の損害を賠償する義務を負う。前記各記事は前記1のような地位にあつた原告の名誉及び信用に決定的打撃を与えたものであり、その精神的苦痛及び信用低下による損害は計り知れないが、一応これを金一億円と算定すべきである。

6 よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、右5の損害金の内金三〇〇〇万円及びこれに対する弁済期経過後である昭和五七年四月二九日(訴状送達の翌日)から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、並びに民法七二三条に基づく名誉回復のための処分としての請求の趣旨第二項記載の謝罪文の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1は認める。

2 同2のうち、被告が原告を非難中傷する事実を摘示したことは否認し、その余は認める。

3 同3のうち、被告が原告のボクシング事業のあり方を非難中傷する事実を摘示したことは否認し、その余は認める。

4 同4は否認する。

5 同5及び6はいずれも否認し、もしくは争う。

三  抗弁

以下の1ないし3によれば、第一回、第二回各記事の掲載・頒布は、違法性を欠くか、もしくは故意または過失を欠くので、不法行為とはならない。すなわち、

1 原告の社会的地位は、請求原因1記載のとおりであつて、特に原告は日本ボクシング界を統括する全日本ボクシング協会の前会長であり、かつボクシング事業家としても同記載のとおりの世界的名士である。かような原告の社会的地位及びその言動の社会的影響からいつても、また前記各記事がいずれも傷害罪の未遂ないし教唆にかかることからいつても、右記事の内容は公共の利害に関するものである。

2 また被告は、取材の結果、原告の具志堅に対する酷使・搾取及び裏金取引(脱税)などの社会的事実が判明したため、これを「週刊文春」昭和五六年八月六日号に掲載し(この記事については、原告から名誉毀損による損害賠償請求訴訟(東京地方裁判所昭和五六年(ワ)第一一二八九号。以下「別訴」という。)が提起された。)、更に取材を続けるうちに、前記各記事の内容を含む事実が判明した。そこで被告は、原告のようにボクシング界を支配し代表する人物がフェアプレイを第一義とするスポーツの精神を自ら踏みにじるような行為をすることは断じて許されるべきではなく、この事実を広く社会の批判にさらすことこそ出版に関与する者の責務であると考えて、右各記事を掲載したものであり、原告に対する私的動機からそうしたものではない。すなわち、右各記事の掲載・頒布は、もっぱら公益を図る目的に出たものである。

3 更に、前記各記事の内容はいずれも真実であり、仮に真実でない部分があるとしても、被告はこれをすべて真実であると信じたものであるところ、右各記事は、いずれも担当者が原告を含む関係者に面接してその供述を聴取し、伝聞にわたるところはその信用性に留意し、何らの予断も偏見も交えずに判断して執筆されたものであつて、被告においてその内容が真実だと信じたことについて相当な理由があつた。

四  抗弁に対する認否及び原告の反論

1 抗弁2のうち、被告が「週刊文春」昭和五六年八月六日号に同記載のような記事を掲載したこと、及びこの記事につき原告から別訴が提起されたことは認め、その余は否認する。

被告は、かねてより前記1のような原告の活躍ぶりに反感を抱いていたところ、昭和五六年八月ころ、原告と具志堅の間の複雑な人間関係に関する誹謗記事を「週刊文春」同年八月六日号に掲載したことにより、原告から別訴を提起されたため、これに対する報復手段の一つとして、世上に流布されていた種々の風評を寄せ集めて醜聞記事に作り上げ、これを「週刊文春」誌上に掲載して原告の声価を傷つけ、あわよくば原告をボクシング業界から失脚させようとして第一回、第二回各記事を執筆し、掲載・頒布したものであつて、右行為は公益目的に出たものではない。

2 同3のうち、前記各記事の内容が真実であること、及び被告が右内容を真実と信じたことにつき相当な理由があつたことはいずれも否認する。

(乙事件について)

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1 被告は、原告に対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 被告は、原告に対し、その発行にかかる雑誌「週刊文春」に別紙第四記載の謝罪広告を一回掲載せよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに仮執行宣言

二  被告

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張、

一  請求原因

1 原告は甲事件の請求原因1記載のとおりの者であり、被告は、雑誌「週刊文春」その他の書籍を出版・販売している会社である。

2 被告は、その編集発行にかかる「週刊文春」昭和五七年三月二五日号の一一頁のグラビア記事において、約六分の五頁相当の原告の顔を大写しにした写真を掲載し、その下に「この顔を見よ 金平正紀協栄ジム前会長」「顔は悪の履歴書」との大見出しを掲載した(以下この写真と見だしを合わせて「本件グラビア」という。)。そして被告は、昭和五七年三月中旬ごろ、同誌同号約七〇万部をその販売網によつて全国各地に頒布し、不特定多数者の目に触れる状態においた。

3 本件グラビアは、原告の表情を写真でとらえ、見る者に対し、ことさらに原告が悪人であるかのような強烈な印象を植えつけるものであつて、被告はその掲載・頒布により原告を侮辱し、その名誉及び信用を著しく毀損し、原告に多大の精神的苦痛を与えた。

4 よつて、原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求権により、右精神的苦痛に対する慰謝料として金三〇〇〇万円及びこれに対する弁済期経過後である昭和五七年五月一一日(訴状送達の翌日)から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い、並びに民法七二三条に基づく名誉回復のための処分として、請求の趣旨第二項記載の謝罪広告の掲載を求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1及び2は認める。

2 同3は否認する。

3 同4は争う。

三  被告の主張

1 「週刊文春」昭和五七年三月二五日号には本件グラビアを含むグラビアとそのコメントが四頁にわたつて掲載されているところ、およそ批判的文章は侮辱的言辞を一切抜いて構成することは不可能なのであるから、右四頁にわたるグラビアとコメントをこま切れにしてその中から本件グラビアのみを抜き出し、これについて「侮辱」であるから摘示事実の公共性、摘示目的の公益性及び摘示事実の真実性ないし摘示者が摘示事実を真実と信じたことの相当性(以下これらを合わせて「真実性等」という。)の抗弁は許されないとするのは、あらゆる批判的文章に損害賠償責任を負えというのに等しい。したがつて、本件においては、右の四頁全体から違法性等を判断すべきである。

2 そして、右四頁にわたるグラビアとコメントは原告の行為に対する論評ないし批判であるところ、論評や批判は、それが対象となつた人の公的活動とは無関係な私生活暴露や人身攻撃にわたらず、かつ、その前提となつた事実について真実性等が存する場合には、その内容が客観的に妥当な意見であるか否か、社会の多数によつて支持される見解であるか否かにかかわりなく、たとえそれによつてその対象となつた人の社会的評価を低下させたとしても、公共的事項についての「論評の自由」ないし「公平な論評」として違法性を欠くものと解するべきである。

しかるところ、右四頁にわたるグラビアとコメントによる論評ないし批判は、原告の公的活動とは無関係な私生活暴露や人身攻撃にわたつておらず、また、その前提となつた事実(とりわけ「悪の履歴書」という見出しの前提となつた事実)は左記(一)ないし(六)の各事実であるところ、左記(一)の事実について真実性が存することは甲事件の抗弁1ないし3のとおりであり、また同(二)ないし(六)の各事実についても真実性等が存するから、前記論評ないし批判は違法性がない。

(一) 薬物事件

甲事件における名誉毀損の摘示事実(第一回、第二回各記事による摘示事実)のとおり。

(二) 具志堅に対する酷使と搾取

(1) 具志堅は、昭和五五年六月のバルガスとの第一二回防衛戦が終つたら引退するつもりでいたのに、昭和五六年三月のフローレスとの第一四回防衛戦に敗退するまで原告に引退を許されず、更に第二〇回戦まで出場を強要されていた。

(2) 具志堅の最も嫌いな選挙応援なども強制されていた。

(3) 具志堅の選挙応援報酬、広告出演料、祝儀金、サイン会謝礼などから大幅なピンハネ・抜き取りをした。

(三) 審判員に対する買収と試合中の判定盗知工作

(四) 裏金(脱税)工作

(1) ボクシング試合の興業権売買契約代金の半分を裏金契約した。

(2) 具志堅の広告出演料を広告会社から社員の個人口座やトンネル会社を通じて受取る脱税工作をした。

(3) 架空経費計上のためメキシコに送金した。

(4) 昭和五四年度協栄ジム決算に三〇〇〇万円の収入を隠匿し、税務当局に摘発された。

(五) 恐喝

(1) 町田スイミングクラブ設立に参加したが、因縁をつけ、総会屋を連れて来るぞと脅し一五〇〇万円を喝取した。

(2) 鳩の森保育園建設が協栄のネオンの妨害になるといつて、暴力団(右翼)を使い六〇〇万円を喝取した。

(六) 女性関係の乱脈

3 また、前記四頁にわたるグラビアとコメントないし本件グラビアは、以下の(一)ないし(四)の各理由によつても、違法性を欠く。

(一) 「週刊文春」の読者の平均年令は他誌に比べて最も高く、その批判能力も最も高い。

(二) 本件グラビアの写真は、原告自らが求めた記者会見における原告の表情をそのまま撮影したものであり、原告が社会に公表を求めた写真によつて真実を伝えるのは一方当事者たる被告の義務ですらある。そして、そのコメントは、右記者会見に臨んだ記者たちの卒直な実感をそのまま表現したにすぎず、意図的に激越もしくは辛辣な表現にしたわけではない。

(三) スポーツ界においては、「疑わしきは罰す」との原則が妥当しており、被告はこれに従つたにすぎない。

(四) 前記四頁にわたるグラビアとコメントでは、本件グラビアの後の頁において、原告の記者会見の模様及び原告のひようきんな一面をそれぞれ撮影した写真を掲載して、本件グラビアの「悪」の表現を中和している。

四  被告の主張に対する原告の反論

1 (被告の主張1に対して)

本件グラビアの掲載・頒布による不法行為は「侮辱」であるから、真実性等は抗弁となりえない。そしてその違法性の有無は、もつぱら本件グラビアからのみ判断すべきである。

2 (同2に対して)

被告の主張する原告の非行事実(被告の主張2(一)ないし(六))はいずれも事実無根であるが、仮にこれが真実だとしても、本件グラビアのように社会的相当性を欠いた人身攻撃、侮辱行為は報道の自由とは無縁のものであり、違法である。また、被告が本件グラビアを掲載・頒布した目的は、当時反原告キャンペーンの真最中にあり、社会の目が一斉に原告に注がれていた絶妙の時機に合わせて、本件グラビアのようなどぎつい侮辱、人身攻撃を掲載することによつて原告が「悪」であるとの強烈な印象を読者に植えつけ、一層の反原告キャンペーンを盛り上げ、「週刊文春」の売上を図ることにあつたのであつて、公益を図るためではなかつた。

3 (同3(一)に対して)

侮辱の表現については、読者の批判能力は機能しないから、この主張は失当である。

4 (同3(三)に対して)

この主張も、それが「真実と信じたことの相当性」の要件を緩和する趣旨であるならば、失当である。

5 (同3(四)に対して)

本件グラビアは前記四頁にわたるグラビアとコメントの最初の頁であり、しかも大見出しで「顔は悪の履歴書」と大書し、右四頁全体の心象を完全に作り上げている独立の表現である。したがつて、本件グラビア以降の写真等により読者が受ける印象は極めて小さなものであり、本件グラビアの「悪」の表現を何ら中和しない。

(証拠)〈省略〉

理由

(甲事件について)

一請求原因1ないし3の事実(但し、同2のうち、被告が原告を非難中傷する事実を摘示したこと、及び、同3のうち、被告が原告のボクシング事業のあり方を非難中傷する事実を摘示したことを除く。)は、当事者間に争いがない。

そして、〈証拠〉に照らせば、本件各記事のうち、別紙第二の番号2ないし6並びに同第三の番号3の各記事は、昭和五六年六月二日に行われた渡嘉敷対金竜鉉のボクシング試合において、原告がチューイングガム、レモン及びオレンジに特殊な薬物を混入して金竜鉉選手に飲食させ、右試合を有利に運ぼうとしたが、同選手のトレーナーである鄭栄華に下痢等をさせただけで結局失敗した事実を、別紙第二の番号7並びに同第三の番号1、2、4ないし6の各記事は、昭和五三年五月七日に行われた具志堅対ハイメ・リオスのWBA世界ジュニア・フライ級選手権第五回防衛戦において、原告が試合を有利に運ぶためハイメ・リオス選手の宿泊するホテルの調理師を買収して同選手の食べるステーキに薬物を混入させ、成功した事実を、別紙第三の番号7ないし10の各記事は、具志堅対ラファエル・ペドロサの同第九回防衛戦(昭和五四年七月二九日)及び具志堅対ペドロ・フローレスの同第一三回防衛戦(昭和五五年一〇月一二日)において、原告がX氏なる人物に薬物工作を依頼したが実行はされなかつた事実を、そして別紙第二の番号1の記事は、以上の集約的事実を、それぞれ示すものであることが明らかである。

右各事実はいずれも、要するに、請求原因1のような地位及び経歴を有し、日本ボクシング界を代表する立場にあるともいうべき(とりわけ、〈証拠〉によれば全日本ボクシング協会会長の地位は世界的に通用するものであることが認められる。)原告によつて行われた、ボクシング試合の公正な運営ないしフェアプレイの精神を否定する行為であり、しかもその一部は犯罪(傷害罪の共犯)をも構成するのであるから、以上の各点に弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、前記認定の第一回、第二回各記事の掲載・頒布により公然事実を摘示して、右のような原告に対する社会的評価を低下させ、その名誉及び信用を毀損したことは明らかである。

二公然事実を摘示して人の名誉または信用を毀損した場合であつても、当該行為が公共の利害に関する事実にかかり、もつぱら公益を図る目的に出た場合において、当該摘示された事実が真実であることが証明されたときは、その行為は、違法性を欠いて不法行為にならないものというべきであるし、また右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者において、その事実が真実であると信じ、しかもそのように信ずるについて相当の理由があるときは、右行為には故意または過失がなく不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁判所第一小法廷昭和四一年六月二三日判決、民集二〇巻五号一一二八頁)。そこで、以下、前記一で認定した被告による第一回、第二回各記事の掲載・頒布が右の要件に該当するか否かについて検討を加えることとする。

三はじめに、被告による右掲載・頒布が公共の利害に関する事実にかかるものであるかどうかをみるに、まず、本件各記事によつて摘示された事実の一部は傷害罪の共犯を構成する(刑法二三〇条の二第二項参照)。また、ボクシングは、現在その試合が新聞、テレビ等により全国に報道され、多数国民の関心事となつていること、及びその試合等が公正に行われるべきものであると一般に期待されていることは公知の事実であり、青少年育成の問題とも無関係ではないというべきところ、本件記事によつて摘示された事実は、その内容に照らせば、前記一において認定したような地位及び経歴を有する原告によつてなされた右のようなボクシングのあり方に重大な関わりを持つ行為なのである。これらの点に照らすと、右事実は公共の利害に関する事実であるというべきであるから、被告による第一回・第二回各記事の掲載・頒布は、公共の利害に関する事実にかかる行為であると認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠は存しない。

四次に、被告による第一回、第二回各記事の掲載頒布がもつぱら公益を図る目的に出たものであるかどうかをみるに、〈証拠〉によれば、被告の記者である石山伊佐夫(以下「石山記者」という。)は、原告の具志堅に対する酷使・搾取及び裏金取引(脱税)などに関する記事を執筆し、この記事が「週刊文春」昭和五六年八月六日号に掲載された(この記事については、原告から別訴が提起された。)後、更に取材を続けるうち、第一回、第二回各記事の内容となつた事実についての情報を得たので、このような反社会的事実は徹底的に取材して社会の批判にさらすべきだと考えて取材を開始し、右各記事を執筆するに至つたことが認められ(以上のうち、右のような記事が「週刊文春」昭和五六年八月六日号に掲載されたこと、及び右記事について原告から被告に対し別訴が提起されたことは、当事者間に争いがない。)、この認定を動かすに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、石山記者は、第一回、第二回各記事をもつぱら公益を図る目的で執筆したものであり、被告が右各記事を前記のとおり掲載・頒布した行為もまたもつぱら公益を図る目的に出たものであると認めるのが相当である。

この点について原告は、被告の右掲載・頒布は、原告から別訴を提起されたことに対する報復目的に出たものであると主張するところ、なるほど前掲各証拠によれば、第一回記事掲載前である昭和五六年一〇月ころ原告から被告に対し別訴が提起されたことが明らかである(原告から被告に対し別訴が提起されたことは当事者間に争いがない。)が、同証拠によれば、石山記者が第一回、第二回各記事にかかる情報を入手し、取材を開始したのは別訴提起の約二か月前である同年八月中旬であることが認められるから、このことに照らせば、原告の右主張は採用し難い。

五そこで、第一回、第二回各記事によつて摘示された事実の真実性ないし真実と信じたことの相当性について検討することとする。

1  取材経過の概略と石山記者の判断

〈証拠〉に、前記四で認定した事実を総合すれば、石山記者は、別訴にかかる事実が「週刊文春」昭和五六年八月六日号に掲載された後、更に原告について取材を続けるうち、同月中旬ころ右各記事にかかる事実についての情報を入手したこと、そこで当初同記者一名で潜行取材を開始し、昭和五七年一月中旬から同記者並びにいずれも被告の記者である木俣正剛、羽田昭彦、小林峻一、浅間芳朗(以下それぞれ「木俣記者」、「羽田記者」、「小林記者」、「浅間記者」という。)及び谷孝之の六名で取材班を組んで追込み取材をしたこと、取材対象者は延べ七〇ないし八〇名に及んだこと、原告に対しては、羽田、小林両記者が同年二月二六日ホテルグランドパレスにおいて約一時間にわたり面接して取材したが、原告は第一回、第二回各記事の摘示事実を全面的に否認したこと、右のような取材の後、石山記者は、右事実を真実と信じ、右各記事を執筆・掲載したことが認められ、これに反する証拠は存しない。そして、右のとおり右各記事の執筆者であり、かつその主たる取材者でもある石山記者ひいては被告においても右事実を真実と信じたものと認めるのが相当である。

2  別紙第二の番号2ないし6並びに同第三の番号3の各記事(昭和五六年六月二日に行われた渡嘉敷対金竜鉉のボクシング試合における原告の薬物工作に関する記事。なお、同第二の番号1の記事については、後記5で説示する。)について

(一) 〈証拠〉を総合すれば、石山記者が、当時株式会社協栄プロモーション(原告を代表取締役とするボクシング試合興業等を目的とする会社)の経理部長であつた伊藤祐一及び協栄ボクシングジムの元トレーナーであつた中村隆並びにその他の株式会社協栄プロモーションの元関係者から取材したところ、同人らはいずれも別紙第二の番号2ないし4の記事と同旨の供述をしたこと、同記者は、同3の記事記載の薬物工作に使用したレモンの購入にかかるものとみられる石井商店名義の領収証、及び4の記載の薬物工作に使用したオレンジの購入にかかるものとみられる株式会社百果園名義の五月三一日付け領収証を入手したことがそれぞれ認められている。

(二) 〈証拠〉を総合すれば、石山、木俣両記者が昭和五七年二月五日から約一週間に亘り大韓民国ソウル市のホテルで金竜鉉選手のマネージャーである崔承哲及び同選手のトレーナーである鄭栄華から取材したところ、同人らは同5及び6の各記事と同旨の供述をしたこと、更に石山記者がボクシングジムである大阪帝挙の吉井清会長から取材したところ、同会長は、崔承哲マネージャーが、前記渡嘉敷対金竜鉉の試合を終えて大韓民国へ帰国する途中大阪に寄り、同会長にオレンジを見せて相談した旨、同6の記事の記載を一部裏付ける供述をしたことが認められる。

(三) 以上に認定した事実についてみれば、別紙第二の番号2ないし6の各記事の内容については、一部供述者の氏名が明らかではないにせよ、前記渡嘉敷対金竜鉉の試合において原告と密接な関係を持つていた等真実を良く知りうる立場にある者らの複数の供述が一致しており、しかもその内容には特段不自然な点はみられない。

3  別紙第一の番号7並びに同第三の番号1、2、4ないし6の各記事(昭和五三年五月七日に行われた具志堅対ハイメ・リオスのWBA世界ジュニア・フライ級選手権第五回防衛戦における原告の薬物工作に関する記事)について

(一) 〈証拠〉によれば、石山記者が原告の関係者から取材したところ、同人は別紙第三の番号5の記事と同旨の供述をしたこと、そこで木俣、浅間両記者が前記具志堅対ハイメ・リオスの試合の前にハイメ・リオスが宿泊した広島のホテルの調理師である中村春男から取材したところ、同人は、右協栄関係者の供述とほぼ符合する供述をし、かつ同番号6の記事と同旨の供述をしたことが認められる。

また、〈証拠〉によれば、本件各記事の頒布と前後して、右中村春男が、毎日新聞、サンケイ新聞及び東京中日スポーツの各記者の取材に対し、同番号5及び6の各記事によつて摘示された事実の一部が真実である旨の供述をしたことが認められ、このことからも、中村春男が木俣、浅間両記者に対して前記認定のような供述をしたことが間接的に裏付けられる。

(二) 右に認定した事実についてみれば、前記番号5の記事については、一部の供述者の氏名が明らかでないにせよ複数の者の供述が一致しており、その内容に特段不自然な点はみられず、しかも右供述者の一人である前記中村春男は前記ハイメ・リオスの宿泊したホテルの調理師なのであつて、原告についてことさらに虚偽の供述をしなければならない事情は見出し難い(〈証拠〉中には、右中村春男が被告の記者に脅かされて右の供述をした旨供述する部分があるが、にわかに採用できない。)。更に、右記事の内容の裏付けとなつた中村春男の同番号6の記事と同旨の供述については、〈証拠〉によりこれを浅間記者が筆記した取材メモであると認められる同事件の前記乙第二一号証、並びに同証言により右取材メモをもとに石山記者が木俣記者の内容確認のもとに執筆した記事であると認められる同第二二号証の各記載内容に照らしても、特段不自然な点は見出し難い。

4  別紙第三の番号7ないし10の各記事(具志堅の試合におけるX氏なる人物に対する薬物工作の依頼に関する記事)について

(一) 〈証拠〉を総合すれば、石山、木俣及び小林各記者が、昭和五七年二月末ころから、元関ジムのセコンドとして具志堅の相手方の選手の世話係を務め、また原告の側近的立場にあつた西出兵一から取材したところ、同人は、自分が原告から薬物工作の依頼を受けたという前記各記事と同旨の供述をしたこと、同記者らは、西出兵一から、薬物工作に使用する目的で原告から西出兵一に渡された薬品であるとみられる白色顆粒状の物質を入手したこと、右物質を昭和大学薬学部毒物学教授黒岩幸雄が鑑定したところ、右物質はプロマジン、クロルプロマジン及びジアゼパムの三種の薬品を混合したものであるとの結果が得られたこと、並びにプロマジン及びクロルプロマジンは中枢神経系の機能を抑制する作用があり、ジアゼパムは中枢性筋弛緩作用があることがそれぞれ認められ、〈証拠〉中これに反する部分は同事件の証人関光徳の証言その他に照らしてにわかに採用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠は存しない。

そして、〈証拠〉によれば、西出兵一が、昭和五七年三月一七日、朝日新聞の記者の取材に対し、前記各記事と同旨の供述をしたことが認められ、このことからも、西出兵一が石山、木俣及び小林各記者の取材に対し前記認定のような供述をしたことが間接的に裏付けられる。

(二) 右の事実についてみれば、西出兵一の石山、木俣及び小林各記者の取材に対する前記供述の内容に特段不自然な点はみられず、しかも同記者らは右供述に符合する証拠物(プロマジン、クロルプロマジン及びジアゼパムの混合物)を入手している(なお、以上によれば、前記X氏なる人物は西出兵一のことであることは明らかである。)。

5  判断

前記1で認定した取材経過の概略及び前記2ないし4各認定の取材過程及びその内容を総合参酌すれば、石山記者ひいては被告において、右2ないし4掲記の各記事によつて摘示された事実が真実であると信じたことは無理からぬものがあるというべきである。

もつとも、〈証拠〉中には、石山記者の前記取材対象者のうち伊藤祐一は横領行為により、同中村隆は選手の引き抜き行為によりいずれも原告が解雇した者である旨の供述部分がある。しかし、〈証拠〉によれば、伊藤祐一は、前記(一)のとおり石山記者から取材を受けた際にはまだ株式会社協栄プロモーションを退職していなかつたことが認められ、また他にその供述の信用性を損うべき事情の具体的立証もないから、仮に伊藤祐一について右原告本人の供述にかかるような事実が存したとしても、石山記者ないし被告において、前記摘示事実を真実と信じたことにつき相当の理由があるとの前記判断を動かすことはできない。また、中村隆についても、仮に前記原告本人の供述にかかる事実が存し、被告においてこれを探知したとしても、以上検討したところに照らせば、このことのみをもつてにわかに前記判断を覆すことはできないものというべきである。

また、〈証拠〉によれば、西出兵一は、昭和四六年ころ精神疾患に罹患し、板橋日大病院に入院したことがあるものであることが認められるが、この一事をもつてその約一〇年後に被告の記者から前記各記事について取材を受けた際における西出兵一の供述が信ぴよう性を欠くものと断ずることはできず、また、右取材当時被告ないしその記者において西出兵一に関する右事実を知悉し、もしくは知悉しえたと認めるに足りる証拠も存しないから、右事実によつても前記判断を覆すことはできない。

6  また、以上のとおりである以上、前記2ないし4で判断した各記事の集約的内容を記述した別紙第二の番号1の記事についても、その摘示事実を被告が真実と信じたことにつき相当の理由があるというべきである。

7  以上のとおりであるから、第一回、第二回各記事による摘示事実が真実であるか否かの点はさておき、被告において、前記1のとおり右摘示事実を真実と信じたことについては相当の理由があつたものと認めることができ、この認定を動かすに足りる証拠は存しない。

六右三ないし五によれば、被告の抗弁は理由がある。

(乙事件について)

一〈証拠〉に、甲事件において認定した事実を総合すれば、原告及び被告は請求原因1のとおりの者であること、被告が前記のとおり原告について第一回、第二回各記事を掲載して、同記事にかかるいわゆる薬物事件が新聞で報道され、世間の注目を集めたこと、そこで原告は、昭和五七年三月九日、東京半蔵門の東条会館で記者会見を行い、右事件について身の潔白を主張したこと、これに先立ち被告は、原告について、被告の主張2の(一)ないし(六)記載の各事実を取材していたので、右記者会見における原告を撮影した写真について、右の各事実、殊に薬物事件の事実(同(一))に基づいて「顔は悪の履歴書」という表現を付し、請求原因2のとおり本件グラビアを掲載・頒布したことがそれぞれ認められ、この認定を動かすに足りる証拠は存しない(以上のうち、請求原因1及び2は、当事者間に争いがない。)。

二請求原因3について判断するに、

〈証拠〉によれば、本件グラビアは、請求原因2のとおり原告の顔を大写しにした写真とその下に付された「この顔を見よ 金平正紀協栄ジム前会長」「顔は悪の履歴書」との見出しのみで構成されており、具体的事実は全く摘示されていないものであることが認められる。そして、右見出し中「顔は悪の履歴書」との部分は、要するに、原告の人格に対し抽象的に「悪」であるとの評価を下しているものであることは明らかであるから、このことに〈証拠〉を総合すれば、被告は、本件グラビアの掲載・頒布により事実を摘示することなく公然原告を侮辱してその社会的評価を低下させ、原告に精神的苦痛を写えたものと認められ、この認定を動かすに足りる証拠は存しない。

2 これに対して被告は、本件グラビアが原告を侮辱するものであるか否かについては、「週刊文春」昭和五七年三月二五日号における本件グラビアを含む四頁にわたるグラビア及びコメントの全体を総合して判断すべきであると主張する。

そこで、案ずるに、〈証拠〉を総合すれば、右四頁にわたるグラビアとコメントは、いずれも昭和五七年三月九日東京半蔵門の東条会館において行われた原告の前記薬物事件に関する記者会見における原告の表情、態度等を撮影した一連の写真、並びに同事件及び右記者会見に関するコメントであることは明らかであつて、右四頁は同一ないし密接に関連する事実に関する一連の表現であるということができる。

しかし、更に検討すると、〈証拠〉に、前記一で認定した事実並びに弁論の全趣旨を総合すれば、本件グラビアの表現は、右四頁の冒頭という掲載位置、その強調的表現態様、並びに前記見出しが第一次的には右原告の顔写真を評した形で述べられたものであり、その頁において表現としては一応完結していることに鑑みれば、これを見る者に対し、後の三頁のグラビア及びコメントの内容を象徴ないし代表する心象を与えるものであつて、それ自体独立の表現として読者の評価の対象となりうるものというべきである。したがつて、後の三頁があるからといつて、前記認定が左右されるものではない。

右のように人について抽象的評価を示すことによつて行われるいわゆる侮辱も、通常は観念的に一定の事実認識に基づいて行われるものであるところ、その抽象的評価の前提となつた事実についての真実性等の証明によつて不法行為の成立が妨げられる場合が絶対にあり得ないかどうかは別として、また、それらの事情は慰謝料額の算定上斟酌され得るものであるとしても、その表現態様が著しく下品ないし侮辱的、誹謗中傷的である等その対象者の名誉感情を不当に害し、社会通念上是認し得ないものであるときは、たとえ右事実について真実性等が証明されたとしても、右侮辱は違法性を有し、不法行為になると解するのが相当である。

3 当事者間に争いのない請求原因2、並びに〈証拠〉に照らして本件グラビアの表現態様を検討すると、前記原告の顔写真の下部にこれを注釈する形で付された「この顔を見よ 金平正紀協栄ジム会長」「顔は悪の履歴書」との見出しは、要するに、通常人たる読者をして、原告の人格は悪であり、その悪事を行つてきた経歴は理屈抜きでその顔に書いてあるという意味に受け取らせるもので、評価の対象者に弁明の余地を与えない形の表現である点で、これが一種の比喩的表現であることを考慮に入れてもなお、穏当さを欠いた表現であるといわなければならない。しかも本件グラビアには、前記記者会見における原告の一表情(渋面とも映る一種不快の念を表わしていると見られる表情)を撮影した顔写真が、約六分の五頁相当の大きさで誌面をはみ出さんばかりに強調的に掲載されているのであつて、前記見出しは、この顔写真と相俟つて読者に対しその表現を一層強く印象づけるものである。

これらの点に鑑みると、本件グラビアについては、たとえそれによる評価の前提となつた事実について真実性等が証明されたとしても、原告においてそれによる侮辱を甘受せねばならぬいわれはなく、その表現態様は著しく耶喩、嘲笑的、誹謗中傷的であつて、原告の名誉感情を不当に害するものというべく、社会通念上到底是認されるものではないといわなければならない。

4 したがつて、被告による本件グラビアの掲載・頒布は、不法行為となるものであり、被告はこれにより原告が受けた損害を賠償する義務がある。被告はこの点についてるる主張する(被告の主張3の(一)、(二)、(四))が、いずれも独自の主張であつて採用することができない。

三右のとおりであるところ、〈証拠〉に照らし、また、前記一のとおり本件グラビアによる侮辱の前提となつた各事実(請求原因2の(一)ないし(六))中の主要なものである薬物事件の事実(同(一))について、前記甲事件の判決理由のとおり真実性等が認められることをも斟酌すると、原告が本件グラビアにより受けた精神的損害に対する慰謝料額は金一〇〇万円と認めるのが相当である。

四したがつて、被告は、原告に対し、本件グラビアの掲載・頒布による不法行為に基づく損害賠償として、金一〇〇万円及びこれに対する右不法行為の日から支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。なお、原告の請求のうち、謝罪広告の掲載を求める部分(原告の請求の趣旨2)は、本件事案に鑑み、相当でない。

(結論)

以上によれば、原告の甲事件の請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるからこれを棄却することとし、乙事件の請求は金一〇〇万円及びこれに対する前記不法行為の後であること明らかな乙事件の訴状送達の日の翌日である昭和五七年五月一一日から支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小川英明 裁判官原 啓一郎 裁判官松津節子は差支えにつき署名捺印できない。裁判長裁判官小川英明)

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